Tokyo JK life! -2nd-

ある日の夕刻、惑星地球・東京にて。
放課後の学生たちで賑わうカフェの店内に、それぞれの学び舎での1日を終えた、ミリエッタとシャロンの姿があった。

ミリエッタ「あっ、シャロンちゃん!今日は急に呼び出しちゃってゴメンねー」
シャロン「いえ、大丈夫ですよ…♪それでなにかあったんですか?」
ミリエッタ「ううん、大した事じゃないんだけど。そろそろ、第8特監の方にもレポートを上げないといけないから…
      最近の地球の状況について、情報共有というか。何か変わった事ないかな?って、お話を聞きたくてね」
シャロン「なるほど。私の方は幻創種への対応のみですがミリエッタさんは忙しそうですね…私でよければぜひ♪」
ミリエッタ「ありがとっ。それじゃ、お茶でもしながらゆっくりお話しよっか!」
シャロン「はい…♪」

2人の会合は、地球駐在アークス同士の簡易ミーティングといった趣のようだ。
席に着き、店員に注文すると、程なくして2人分のケーキセットが運ばれてくる。

ミリエッタ「ふふ、ここのケーキは絶品なんだよね~」
シャロン「そうなんですね、基本寮の敷地内からでないのでこの辺はあまり来たことがないんですよね…」

シャロンは言いながら、物珍しそうに店内を見渡していた。

ミリエッタ「そっか、アモルカーナの生徒は普段、寮暮らしだもんね…。色々と楽しい場所もたくさんなのに、もったいないな~」
シャロン「それもありますが、日常品の買い物や外食までほとんど敷地内で済んでしまうのが、出なくなる大きな原因ですね…」
ミリエッタ「えぇっ、そうなの!?お嬢様学校はさすがね~……」
シャロン「はい…なので、以前いったクレープ屋さんとかは、私の数少ない外でのお気に入り、となっているわけです」
ミリエッタ「そうなんだ~…。私なんか学校帰りにあちこち食べ歩きしてるから、行きつけのお店もたっくさん!
      おかげでついつい食べ過ぎちゃって、先月も体重が……」
シャロン「その辺りは乙女の共通の悩み、ですね」
ミリエッタ「だよねー……。
      って、違う違う、こんな話をしてる場合じゃなくてっ」

嘆息するミリエッタだったが、すぐさまハッとなり、脱線しかけた議題を元に戻す。

シャロン「あ、そ、そうでしたねっ。ええと最近のこちらでの出来事、ですか」
ミリエッタ「うん。最近アモルカーナの周りでは、おかしな事とか起きてない?幻創種の発生は、小規模なものは日々続いてるだろうけど…」
シャロン「はい、エーテルの影響で確かに幻創種は発生してますが。一時のマザークラスタの事件以降、少数のアークスでも討伐できる数になってます。
     そこからの変化は特になし…引き続き幻創種を倒しつつも地球に在住といったところですね」
ミリエッタ「そうだよね……洸陵学園周辺も、同じような感じ。
      小規模な幻創種発生はあれど、それは地球がエーテルに満ちている以上、仕方のないことだし。
      マザークラスタの一件が落ち着いてからというもの、大きな変化ってないんだよね」
シャロン「あったらあったで困ってしまいますけどね…」
ミリエッタ「まぁ、それはそうだよね……。
      とりあえず報告書の方には、『平常通り、特記事項なし』ってトコかな」
シャロン「はい、そうなりますね」

しかし、いざ本題に入ってみれば、なんということはない。
現在の東京は、エーテル関連の事象については概ね平和という事だ。
ミリエッタも、シャロンから話を聞くまでもなく予想はしていたし、実際に報告書の作成に難儀していた訳ではない。
つまりはこのミーティング自体、“シャロンに会ってお喋りに花を咲かせたい”という目的の方が強いものだった。

シャロン「特に、一般市民だったヒツギさん達の協力を求める事態はなるべく避けないといけませんからね…」
ミリエッタ「うんうん、地球の人たちは巻き込めないよね。
      だからこそ、私達アークスが駐在してる訳だけど……
      こんなにも平和だと、なんだかなぁ」

ミリエッタが宙を仰ぎ、物憂げな表情を浮かべる。

ミリエッタ「平和なのは良いことだし、学校生活も楽しいんだけど~……」
シャロン「…?…何か別の悩みごとでもあるんですか?」
ミリエッタ「うーん、うまく言えないんだけど。
      ちょっと変化が足りないというか、刺激が欲しい、っていうのかな?」
シャロン「刺激、ですか…」

いまいち要領を得ない話にも、シャロンは真摯に耳を傾けながら、手にしたカップを口に運ぶ。
紅茶の香りを味わいつつ、友人の悩みについて考え込んでいたのだが。

ミリエッタ「はぁ……せっかく女子高生してるんだし、恋とかもしてみたーい……」
シャロン「っ!!、けほっ、けほっ!」
ミリエッタ「わわっ、大丈夫!?そ、そんなに変なコト言ったかなっ…」
シャロン「い、い゛え゛っ、そういうわけじゃないんですがっ、変な所に偶然入ってしまって……ふぅ…でも恋、ですか…」
ミリエッタ「うん~。ほら、私達だって青春真っ最中な年頃の訳だし!やっぱり憧れるじゃない!?」

想定外の方向にすっ飛んでいく話の流れ。
紅茶が気管に入りでもしたのか、盛大に咳込むシャロン。
その目の前では、ミリエッタが目を輝かせながら力説していた。

シャロン(急に恋っていわれて思わず動転しちゃったけど確かにそうだよね、ミリエッタさんもそういうお年頃だよね…っ)
シャロン「た、確かにそうですね…、わ、私もその、憧れます…っ」

シャロンはどうにか平静を装って、相槌を打つ。

ミリエッタ「でも、なかなか簡単には行かないよね…。実は前に、クラスの男子に告白された事もあるんだけど…」
シャロン「あるんですか…!?」
ミリエッタ「うん……でも、それまで特別親しい間柄だったって訳でもなし、急に……だったし。
      そもそも私、地球人じゃないしっ。そんなだと、断るしかないじゃない?
      ……今にして思えば、ちょっと惜しい事したかなぁとも思うけど……」
シャロン「確かにミリエッタさんは優しくて、悩みごとがあれば親身になって聞いてくれたりと好きになる要素は多いと思いますからね…」
ミリエッタ「あはは、ありがと。
      でも、こちらの理想のタイプの人に好きになってもらえる、なんて事はなかなか無いよね~……」
シャロン「そう、かもしれませんね………あの、ちなみにミリエッタさんはどんなタイプが好きなんですか?」
ミリエッタ「んー、優しくって頼りがいのある年上のヒト、かなぁ?」
シャロン「優しくて頼りがいのある年上の人…確かに地球では学生で通ってますから、どうしても上の年の方と合う機会も少ないですね…」
ミリエッタ「そうなんだよね~」

何の解決にも繋がらない、取り留めもない会話。
上手く行かないと嘆くミリエッタだが、言葉を交わすこと自体が楽しく、その表情は明るい。
シャロンもそんなやり取りを心地よく感じていたのだが。

ミリエッタ「……シャロンちゃんの方はどーお?学園内で恋愛とか……
      って、アモルカーナは女子高だからそういうのは無い、かな?」
シャロン「わ、私ですか?ええっとそう、ですね…あ、あるともいえますしないともいえますし…?
     その、女子高では女子高での恋愛というか、憧れと恋愛感情を一緒にしている子達もいたりして…」
ミリエッタ「えっ、そうなの?
     女子高ってそういうシュミの子もいるとか聞くけど、ホントなんだ……」

唐突に話を振られ、慌てるシャロン。
その脳裏には、これまでの学校生活──
下級生たちに“お姉さま”と慕われたり、寮のルームメイトから過激なスキンシップを受けたり……が思い起こされていた。

シャロン「はい、そうですね…あと身体を密着させる子達が多くてですね…もしその時生えてたらと思うと気が気じゃないというか…」
ミリエッタ「???
      生えて……って?」
シャロン「へ…あっ、ちが、なんでもないです!ちょっと他のとまざっちゃっただけだからっ、あ、あはは…」
ミリエッタ「う、ん…?
      とりあえずシャロンちゃんはそっちの趣味じゃないよね?恋愛対象は男の子、だよね?」
シャロン「も、もちろんだよ!私は女の子、だから!うん!」
ミリエッタ「だよね、よかったー」
シャロン(うう、学校での出来事を考え過ぎてつい口がすべちゃった…でもばれてない感じ…だよ、ね…?)

とある事情で男性から女性に転じた上に、不安定に双方の性を行き来するという秘密を抱えたシャロンの身体。
女学院内で、突然男の姿に戻ってしまう……思わずそんな悩みを口走りそうになった彼女は、慌てて誤魔化すのだった。

ミリエッタ「じゃあさ、シャロンちゃんはどんなタイプのヒトが好みなの?」
シャロン「あ、ええ~と…わ、私もミリエッタさんと同じ、かなぁっ」
ミリエッタ「そっかぁ……。
      でも、なかなか“この人!”っていうのは見つからないんだよねー。
      学校じゃ出会いも限られてるし、地球の人には正体は明かせないし……相手を探すならオラクルで、なんだろうけど……」
シャロン「う、うん~、そうだねぇ…わ、私もそうい人見つけたいとは思ってるんだけどね」
ミリエッタ「アークスはそもそも女の人の比率が高いし、男の人も特定のお相手がいる人がほとんどだもんなぁ……」
シャロン「それは確かに…なかなか難しいね…。
     すぅ…はぁ…ですけど出会いを求めるのでしたらやっぱりその条件をクリアするにはオラクルの方しかいないですよね」

好みのタイプを尋ねられても、先ほどの動揺が尾を引き、しどろもどろな返答となってしまう。
時折深呼吸を挟みながら、シャロンは必死に冷静さを取り戻そうとしていた。

ミリエッタ「その点、地球に駐在してる私達は不利だよね……はぁ、何処かに良い出会いないかなーっ」
シャロン「難しいところ、ですね…ここら辺でアークスの人が残っていたらいいんですけど…」
ミリエッタ「マザークラスタの一件が落ち着いて、撤退しちゃったアークスも多いからね。
      駐在しないまでも、もう少し頻繁に来てくれても……」

いつしかミリエッタのぼやきは、地球で活動するアークスが減少傾向にある事に向かっていた。

ミリエッタ「……アドニスおにーさんだって、アースガイドとの連絡役で定期的に地球に来てくれてるハズなのに。
      忙しいのか、こっちで全然会ったことないんだよね~……」
シャロン「確かに最近アドニスさんには会えてませんね…寂しいです…。
     以前はイヤといっても来てくれましたのに…気付いたらまったく会えなくなってしまって…」

2人と同じ隊に所属するアドニスの事が話題に上がると、シャロンは手を胸のあたりに遣り、少し悲しげな表情を浮かべる。
だがその反応は、ミリエッタにとっては意外なものだった。

ミリエッタ「へ?おにーさん、シャロンちゃんには会いに行ってたの?
      えっ、なにそれ聞いてないっ…!
      もー、地球に来たなら、こっちにも顔出してくれたら良かったのに~」
シャロン「…?、はい、何度かお会いさせていただいてましたけど…ミリエッタさんのところには来ていなかったのですね」
ミリエッタ「うん、アースガイドとのやり取りで忙しいんだとばかり思ってたけど……」

アドニスが地球を訪れるたび、足繁くシャロンの元に通っていた事。
そんな彼に、シャロンが無意識のうちに惹かれ始めていた事など、ミリエッタは知る由もない。

シャロン「私はむしろいつ会っているのだろうと思っていました…確かに何度かアースガイドの方と対談しているのが見ましたが。
     その時の会話はなんだかそれとは少し違っていた気もしますし…」
ミリエッタ「そ、そうなんだ……?」
シャロン「はい。そのアースガイドの方に話しかけられた時に“あの男に近寄るのはやめなさい”“あなたは騙されている”
     そんなことを言われてしまって、私もなんて答えたらいいかわからなくて…」
ミリエッタ「な、なんだか、妙な話だね……?
      なんだったんだろう??」
シャロン「はい、本当にどういうことだったのかいまだにわからないんです…。
     しばらくはその方の監視もあっての学校生活でしたが、今ははもうそのようなことがないので聞けずじまいに…。
     まぁおそらくなにか勘違いをなさっていただけなんだとは思います…」
ミリエッタ「なんだかよく分からないけど、シャロンちゃんも大変だったんだね……」
シャロン「あはは…そうですね」

もっともシャロンはシャロンで、アドニスとの逢瀬を繰り返す中で、一悶着に巻き込まれていたりしたのだが。

ミリエッタ「ふぅ……恋の相手探しも、一筋縄ではいかないなぁ……」

ひとしきり話し込み、気持ちの昂ぶりもひとまずは落ち着いたのか。
ぐでーっ、とテーブルに突っ伏し、ミリエッタは本日幾度目かのため息を吐く。

シャロン「もう、そんなテーブルに顔をくっついて…知ってる人に見られても知りませんよ…?」
ミリエッタ「ゔ~……。
      分かってるんだけどねー、恋はしようと思ってするものじゃない、って事くらい……」

シャロンに窘められるが、ミリエッタはテーブルに伏したまま、自嘲気味に呟いていた。

ミリエッタ「ねぇ、シャロンちゃん」
シャロン「はい、なんでしょう…?」

不意に静かな声のトーンで呼ばれ、空になったカップを置くシャロン。
コトリと、小さな音が響く。

ミリエッタ「前にさ、ハミューくんがダーカーの影響を受けて大変な事になっちゃった時……シャロンちゃんが励ましてくれたよね」
シャロン「あ、そういえば…だいぶ前のお話ですがよく覚えていましたね…」
ミリエッタ「あんな風に、ツライ時に優しく支えてくれる人が、理想なんだけどな……」
シャロン「え…?」

愁いを帯びた顔を、シャロンへと向けるミリエッタ。

ミリエッタ「……シャロンちゃんが男の子だったら、好きになってたかもしれないのに」

上目遣いの琥珀色の瞳に見つめられ、シャロンの胸がドキリと高鳴る。

シャロン「そ、それ、は、えっと…その…!?」
ミリエッタ「あははっ、もしもの話だよ、もしもの話っ」
シャロン「も、もしもの話かぁ…!あ、あはは、ちょっとびっくりしちゃったよぉ」
シャロン(ほんとはちょっとじゃないけど…っ、でもこれってどういう事…!?ミリエッタさんがボクの事、を…?)

ミリエッタは笑いながらテーブルから身を起こすが、シャロンは完全に動転してしまっていた。
アモルカーナ女学院での生活の中で、すっかり乙女に染まりつつあった精神(こころ)が、一気に男性のそれへと引き戻される。

ミリエッタ「ふふっ、お互い素敵な相手が見つかるといいねっ」
シャロン「そ、そうだね」
ミリエッタ「さてっと…今日はこのくらいで帰ろっか?
      付き合ってくれてありがとっ」
シャロン「う、うん、ぼ、私も話せてよかったよっ」
ミリエッタ「それじゃあ、またね!」
シャロン「うん、また…!」

上擦った声のままどうにかミリエッタを見送るシャロンだが、心臓は未だ早鐘を打ち鳴らし、頬は微熱を宿したままで。

シャロン(これから普通に話せる自信がないよ…!)

スカートの中でもじもじと両膝を擦り合わせると、ややぎこちない足取りで、寮への帰り道を歩き始めるのだった。

  • 最終更新:2018-04-16 01:20:32

このWIKIを編集するにはパスワード入力が必要です

認証パスワード