ShiNoBooks_00

「しっかし兄さんも出世しやしたねェ。まさか別の船に支援たぁ僕も鼻が高いってモンだ」

「出世かぁ…?どうみたって厄介払いだろコレ」


ナウシズのとある区間――公にはされているが、存在自体知る者は少ない『チャイナタウン』と呼ばれる街を
事実上仕切っている「情報屋」

ガランドウ
伽藍堂は、目の前で仏頂面でタバコを蒸かしている男――シノブに対し、茶化すように笑った。


「そんな顔しなさんな、イイ男が台無しですぜィ?」


フォローのつもりだろうが、シノブにとっては面白くもない話であった。何ぜ管制室から呼び出しを食らったと思えば
「3番艦の戦力支援に向かって欲しい」
との事である。無論断る事も考えたが――どうせすぐ帰ってこれるだろうと踏み、承諾した――のが、大きな間違いであった。
事後承諾。後の祭り。喉下過ぎれば熱さ忘れる。程なくして通達されたメールには『長期滞在』の単語が入った
読みたくも無い長ったらしい文章であった。


「…ハァ。ともかく決まった事ぁ仕方ねえ。で、だ。今日お前の所まできた理由、そろそろ話していいか?」

「なんでぃ、仕事かい?それならそうと早くいいなせェ。2年ぶりの再会で懐かしくて話に華を咲かせにきたとばっかり思ってやしたぜ」

「ンな訳…も、あるがよ。依頼内容は、俺の経歴を改ざんしといて欲しい。普通なアークスって感じので」


シノブの以外な発言に、伽藍堂は眉を顰(ひそ)める。この自意識過剰で目立ちたがり屋な男が、改ざんを依頼するとは思ってもみなかった。
しかも、「普通」と来た。


「兄さんが普通のアークス目指してるとは…明日はベイゼの雨でも降りやすかね。いつのも超絶イケメンなんとかはお役ご免ですかい?」


伽藍堂の言葉に、シノブは頭をガリガリとかき深い溜息を吐く。
暫しの沈黙の後、零すように、


「… … …いやさ。せめて、向こうの船ぐれえは、平穏に過ごしたい」

「――…。それは…切な願いですねィ。だけど、兄さん」

「あん?」

「無理じゃねえですかい?兄さん、なんだかんだで自分から首突っ込んじまうじゃねえですか」

「…そん時はそん時だ。ともかく、無用なトラブルは避けてえんだ。避けられない奴は別として、な」

「へいへい、わかりやしたよ。そんじゃ、兄さんの儚くも短い平穏のために一肌脱いでやりまさぁ」


幾度と無く交わした売り言葉に買い言葉。それに満足したのか、シノブは踵を返し、片手をふり彼女の店を後にする。
誰も居なくなり、端末のキーを叩く音だけが木霊する中、伽藍堂は一人ごちる。


「――しかし兄さん。アンタのこの経歴、どう繕っても普通にはできやせんよ」





【シノブ・シドウの戦績】





【おや、「覗く」んですかィ?アンタも悪趣味ですねィ…】







  • 最終更新:2017-04-29 02:02:46

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