振り込み詐欺は銀行が閉まる15時前

千手観音かな。
トリウィアの感想はそんなところだった。

「アヴァロン様。少しお話があるんですけど」
「なんだい?」

こちらの問いかけに応答はするが、視線は彼の力で創造された目の前のアーケードゲーム。
手捌きが速過ぎて残像が見える。人間での限界点を叩きだした彼は、次は極みまでやるつもりらしい。
そんな所にゴッドパワー使わなくても。

「シィナ、のことなんですけど」
「ん? あぁ、この間追い出したからね。 もうあの子は新しい居を構えているだろう?」
「まぁ、そうなんですけど。えーと、違います。家のことじゃなくて」

彼と自分の共通の趣味の、本やら機械やらグッズやらがやたらと増えたので、それらしい、彼が「うっ」となる理由を付けて家から追い出したのだ。差し押さえに近い形だった。

「ワタシたちの正体のことですよ。いや、そんなに大層なものじゃないですけど」
「……そういえば、僕は以前話したことがあったなぁ」
「は!?」
「『トリウィアを倒してほしい』とは言ったかな」
「え!?」
「あ、違うか…『時空の再構築に、オラクルも巻き込まれてしまうかも』だったかな」
「それだけ言われても困惑するやーつ!!」


ぺち、と額を叩いてトリウィアは唸った。
確かにマンティコールが"箱庭"を開く前は幻体だった故にちょっと制御が追い付かず、何回か盟主たちをアレしたことはあったがそんなラスボス扱いされていたとは。

「ラスボスって御前さ…レイリアさんですよね?」
「あの子は隠しボスだろう?」
「いやいやいや、隠しボス倒さないと詰むゲームとかクソゲーじゃないですか!」
「あの子を倒すつもりなのかい?」
「言葉の綾ですよーもう…アヴァロン様、今生を終わらせるか悩んでますでしょ?」
「………」

スコアカンストを叩きだして満足したのか、アヴァロンはこちらに戻ってきた。
手にはいつの間にかアマゾネスの段ボールがある。

「あ、新作届いたんです?」
「留守子が受け取ったみたいだからね。転送してきたよ」
「毎回思うんですけど、ネーミングセンスどうなってんですか」

留守子とは、地球のとあるマンションの一室にいる「新作ゲーム、グッズ、新刊、および薄い本」を受け取り、オラクルに転送する重大な任務を背負っている機械人形のことである。
いや、それは置いといて。

「レイリアさんもそうですけど、シィナ…いえ、あの子も楽しそうじゃないですか。左遷された分際で。」
「『僕とレイリアを悲嘆の呪いで呪殺しようとしたから』、は表向きの理由だろう?事実ではあるけどね」
「……まぁ、そうなんですけど」

悲嘆の暴走に対抗出来るこの時空における未だ醒めない自分が醒める確率と。
今生、厄介な存在として生まれてきた太陽にシィナが邂逅してしまう確率と。

盟主たちだって人間で、まだ醒めていない。太刀打ちが出来ない。
かと言って、「今生君は危険だから、今すぐ感情暴走を8回起こして自殺してくれ」とは言えるわけもなく。

「まぁ、シィナが外界に出たからこそ、色々判明したこともありましたしねぇ…」

しみじみとほうじ茶を啜って、トリウィアは言った。
自分としても、今生…いや、この時空列は楽しいのだ。
きっとそれは、レイリアだって、アヴァロンだってそう。

「でも、気が緩み過ぎてポメったり生やしたりし過ぎだと思いまして」
「アレイスターも言っていたね。」
「ですです。それでアレイスターと話したんですけど、ある程度はポメのこと知ってもらっておいた方がいいのではないかと」
「僕はその役目は引き受けないよ?」
「えぇ!? 一番適役じゃないですかヤダー」
「面倒だろう…どこから話せばいいんだ」
「『――これはまだ、人が空に住んでいた頃のお話』」
「全ての始まりじゃないか」
「……ダメですね、あまりにも情報量が膨大過ぎて要約しても3年掛かりますよ」
「あの子は"訳アリ"で、"羽根が生えたり"、文字通りの"大きな子供"になるときがあると伝えるのはダメなのかい?」
「"訳アリ"で『時空の再構築に、オラクルも巻き込まれてしまうかも』とか迷惑極まりないです。再構築だって、アイデス業界ワードですよ」
「過去の僕を殴ってきたらいいのかな?………そうか、そうだ」
「ん?名案でも思い付かれました?」

地球産タブレットでソーシャルゲームを起動しながら、アヴァロンはどや顔で言った。

「要約が面倒なら、過去に導けばいいじゃないか」
「ええええ…………名案ですね、さすがアヴァロン様です」
「黄泉御前の元へ参り、創造主により生まれし新たな命。行きはレイリアに力を借りて、帰りは僕が手を回そう。干渉してくるだろう事情を知らない過去の眷属たちは、アレイスターとトリウィアの法悦バリアで跳ね返したらいい」
「法悦バリア……あれですか、薄いバリアを張って水中でも息が出来るみたいなサムシングですか」
「そうそう」
「便利ですねぇ法悦…あ、これってシンキングタイムは設けない感じです? 振り込み詐欺は銀行が閉まる15時前にするのと同じ要領です?」
「そうだな…男は根性、女は気合いだ。"あの子は幸せにならなければいけない"……そうだろう? 神様らしく、横暴に行こうじゃないか」

脚を組んでにやりと笑う姿は、どちらかと言うとラスボスに見えた。
まあ、基本ゲームのラスボスって神様ですしね。隠しボスも神様ですけどね。ソーシャルゲームしてる神様とか格好が付きませんけど。

でも、なんだか楽しそうなので。
まぁいいかとトリウィアは思った。

  • 最終更新:2018-03-26 12:55:37

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