彼女が朝焼け

「AAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA...!!」

今にも噛み付きそうな勢いでリティは唸る。

「この・・・クソッタレの・・・クズ偵察班!!」

隠れている廃屋の壁が、何発も銃弾を通す。
その度に小さな小石が散り、リティのヘルメットに小さな傷をつける。

「リティちゃーん?まだ生きてr」

「救援なら早くしろこの無能隊長!!戦力の偵察はしたはずだろ!?何してた!?観光!?」
「数倍どころじゃない!!数十倍!!数百倍だぞ!?」

穴は増えていく。銃声は激しさを増し、確実にリティを葬らんとしている。
穴から僅かに、巨大な機械の腕が見えた。

「なんで・・・なんで・・・」

腕から放たれる、3発のミサイル。
迫るミサイルを見て、リティは外に、腰のブースターを吹かして飛び出す。

「なんでAISがいるのを確認出来なかったぁあぁ!!!」

飛び出した先、ガードレールの太いポールを盾にし、再び隠れる。

「ごめんよリティちゃん、それと"いつも通り"救援の話じゃなくて、君が生きてるかの確認なんだよ」

「そうだろうと思った!!!」

ブースターを吹かして走り回りながら、銃弾を避け続ける。
彼女を小賢しく思ったAISが、再び腕のミサイルを撃つ。3発が不規則に飛び、リティを追う。

「もう!!クソ!!!」

ライフルを抜き、乱射する。二つを撃ち落とし、一つを狙う。
当たらない弾、迫るミサイル。ビルに走り込んでいくリティ。
着弾、爆発。崩れる小さなビル。
勝ちを確信したAISは、持っていたソリッドバルカンを肩にマウントし、移動しようとしていた。
次の瞬間、AISの脚部が爆発し、大きくバランスを崩す。
爆炎の少し先、崩れたビルの瓦礫の上から、リティがランチャーを放っていた。

「お前の時間は終わりだ!ここからは・・・」

二丁のツインマシンガンを抜き放ち、構える。

「私の時間だ!!」

更にランチャーを放つリティ。AISは今度こそ彼女を葬らんと、ソードを抜き放ち、彼女に迫る。

「来い、クソッタレ!!」

そして大きく横に薙がれるソード。リティはそれを、すれすれで回避して、AISの胴体にワイヤーを突き刺し、急接近する。

「そしてぇ・・・!!」

ワイヤーに捕まりながら、コクピットのモニターを占拠するリティ。両腕にはマウントされたツインマシンガン。

「死ねぇ!!!」

連射、連射、連射。弾が尽きるまで銃声は続く。彼女を剥ぎ取らんと、AISが動く前に、決着はついた。
そして、その数分後。

「あの~リティさん?リティさーん?AISは出来れば回収って話だったんだけd・・・」

コクピットの中の死体から、脚部の先まで、大量のリモコン式爆薬を仕掛けられたAISの残骸。

「目的を果たしたいなら・・・」
「今度は情報をしっかりね?クソ隊長」

爆発、爆発、爆発。それはまるで花火のように。

「あーあー・・・はーい・・・」
「次からは気を付けまーす・・・」

「9回目」

「はいよーう」

爆発で明るくなった空を見て、リティは深く大きく溜息をつく。

「全く、なんで今日みたいな日に限って・・・」

──────────────────────────────────────────────────────

「ふー・・・っ」

紫煙を吐き出しながら、リティは空を見上げる。
市街地某所、情報部のビルの上で。

「全く、テロリストの排除なんて、本来戦闘部とか、警察とかの仕事でしょうが」

困ったものだ。緊急性の高い依頼だとしても、あの屑眼鏡に良いように使われている。
尤も、部隊自体がその屑眼鏡によって保たれたのだから、仕方ない話である。
それでも、悪態をつかずにはいられなかった。

「今頃噂のリゾートかしら・・・」

いつも通り、端末での事務処理をしながら。
傍らには、大事な大事な彼女、シャームの写真。
おそらく撮らせてと言っても、撮らせてはくれないので盗撮だ。
クソ隊長に惚気の一つでもくれてやりたい所ではある、ただしそう言った時間は、ほぼ全て任務で掻き消されていた。

「・・・そういうのが出来るのは、もう少し先ね」
「尤も、その時に生きていられれば、だけれど」

今頃彼女は、寂しいと呟いている頃だろうか。送り込んだアラネアが、上手くやってくれる事を祈るしかない。
独り身で久しぶりの彼女に、こんな事を頼んだのは間違いではないのか?と今になって思う。
空は薄く明るくなる頃。空を見上げてもう一つ紫煙を吐き出して。

「全く、何で今日みたいな日に限って・・・」

「だう!」

驚いて右の方を見る。そこには、つい先ほどまでいなかったはずのイリニが、満面の笑みで座っていた。
組めていない胡坐で。

「なんでいるの」

「えっ」

「もう寝る時間過ぎてるでしょ」

「あ、う」

「ねぇなんで出て来たの?」

「だうー・・・」

喋る前に質問攻めにされて、押し黙るイリニ。
一方でリティは、それなりに怖い顔をしていた。

「・・・リティお母さんとも、シャームお母さんとも、お姉ちゃんとも、クスィとも・・・一緒にいられる時間、少ないから」

ぽつんとイリニは呟く。それは普段の彼女からは想像できない程に弱々しく、そして辛そうな声だった。
・・・申し訳なさと罪悪感、それと少しの苛立ちを感じたリティは、言葉に詰まる。

「・・・だから、出て来たの。・・・帰っておやすみするね」

立ち上がって、薄明るくなった空を寂しそうに見るイリニ。

「おやすみ、お母さん・・・・・・?」

振り返って、おやすみを言った直後。
リティはイリニを抱き締める。ほんの少しの間だった。しかしそれでも、イリニには充分過ぎるほどの時間だった。

「・・・だう♪」

イリニもリティを抱き締める。離れようとしたリティを、離さないように。

「もうちょっと、だけー・・・♪」

諦めた顔をして、リティはイリニを撫でる。

「全く、困った子・・・。・・・ほら、帰りなさい」

さっとリティを離し、ぴょんぴょん跳ねながら、手摺の上に立つイリニ。

「お母さん、おやすみ!大好き!だうー!」

大きく、大きく手を振って。満面の笑みが、顔を出した太陽で照らされる。

「・・・おやすみ、イリニ。大好きよ」

苦笑しつつ、小さく手を振ったリティ。それを確認して、イリニはビルを飛び降りる。
途中でパイプに捕まり、上を見上げて、手摺から顔を出したリティの方に、もう一度手を振る。
そうしてパイプを伝い、ビルの屋上を風のように走っていく。

「全く、貴女達には振り回されてばかりだわ」

呟くリティの顔は、どこか悔しそうで、どこか嬉しそうだった。

  • 最終更新:2018-02-25 09:10:00

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