凪いだ風の交差点

【あーあ”ー!これ、C隊の通信網で間違いないですかね!?】

ハミュー=ウェルパ「…ん?そうですよ??」
アネモネ「ハロハロー。こちらC隊の回線で間違いありません」

【今、ナベリウスの森林にいるんですけど、ダークファルスって出るんですかここ!!?】

「んあ、何?どしたん?」
アネモネ「ダークファルスは神出鬼没なので、出ることも…って、出たのですか?」
ハミュー=ウェルパ 「えー…ナベリウスはでちゃいますね…」
迅雷 「んー、まれによくあるぞ…?規模によるけんど」

【いや、流石に二体とか無謀ですってアヴェイロさん!分裂してるから!から!】

アネモネ 「二体? 【双子】かしら? あとアヴさんがそちらにいるのですか?」
ハミュー=ウェルパ 「加勢にいったほうがいいのかな…?」

【あ、そーですそーです! 割りと無謀なので出来ればヘルプミーを…!ワタシ燃やすことしか出来ないんで!】

迅雷 「アヴェイロ…?ん、それアヴの回線なのか…通りでここに来るわけだわな」
ハミュー=ウェルパ 「わかりましたっ座標をこちらにおくれますか??」
アネモネ 「アークスのお仕事です。お手伝いに行きますね」

【はい!これです座標!!!】

ハミュー=ウェルパ 「 …座標確認、では僕は向かいますね」
迅雷 「んだな、身内というか隊のメンバだし…んあ、あんがと」








「ぐっ…!」


強い衝撃を受けて、後ろに吹っ飛ばされる。
背中を強かに打ち付けて、アヴェイロは低く唸った。援護攻撃は焼け石に水と判断したルビィアは支援に徹することにしたらしい。でなければ、アヴェイロは既に命を落としているはずだ。



攻撃は止まない。
躱せないと判断したアヴェイロは、目を瞑った。
マグがアヴェイロの前に飛び出し、魔法陣のようなものが浮かび上がる。マグからは聞き慣れない呪文のようなものが途切れ途切れに聞こえた。


「光よ」

光属性のフォトンが【双子】に向けて飛来する。
閃光が走り、風が舞う。


奥の手の極みである古代魔法を起動しようとしていたルビィアは、援軍が来たことを悟り深い深い溜息をついた。
アヴェイロもまた、目を開かずに溜息を零した。



シャロン 「はぁ、はぁ…【双子】の出現があったと聞きましたが……もうすでに討伐なされたあとみたいですね」
アネモネ 「あら、ハロハロー」
ハミュー=ウェルパ 「あ、こんばんわー」
アヴェイロ 「はぁ……はぁ、すまない 助かった……」

息を切らしたシャロンが森林を駆けてきた。
集まった姉の仲間たちを見て、アヴェイロは立ち上がろうにも力が入らずそのまま座り込んでしまった。

ハミュー=ウェルパ 「っとと…大丈夫ですか??」
アネモネ 「手負いでしたので、ハミュさんとジンさんの加勢でうまく退けられました」
シャロン 「あ、お姉さんこんばんわ♪それに皆さんも…」
迅雷 「どうもなー」

ハミュー=ウェルパ 「アネモネさん治療できますか??」
アネモネ 「もちろんです。 我、奏でるはフォトンの調べ」


アヴェイロの怪我を見たハミューは、アネモネに治癒のフォトンを頼んだ。


ハミュー=ウェルパ 「さすがです」
アネモネ 「どうですか? 痛み、引きました?」
迅雷 「立てそうか?」


救援にやってきた3人は、それぞれにアヴェイロを心配している。
やっと一息ついたシャロンは、座り込んでいる人影に気付き、首を傾げた。


シャロン 「ん、そこの方はお知り合い…なのですか?」
ハミュー=ウェルパ 「えーっと…レイリアさんの弟さん、かな…」
アヴェイロ 「…あぁ、少し落ち着いた」
シャロン 「レイリアさんの…そうなんですね」

アヴェイロ 「…あの化物のようなやつは、よく出現するのか?」
迅雷 「ん、まあそれなりにだな」
ハミュー=ウェルパ 「頻繁にはでないとおもいますけど…」
アネモネ 「よく遭う方と、そうでない方もいらっしゃいますね」
シャロン 「アークスが【双子】の存在を確認してからはそれなりに、ですね」

【もー、だから言ったじゃないですか~ 「なんかヤバそう」ってこれ以上ない、危険予知ですよ! 無視するからこうなるんです!】

アヴェイロはその緊張感のない能天気な声を聞いて、嫌そうに眉を潜めた。



アネモネ 「…今の声、聞き間違えでなければ、マグから聞こえた気がします」
ハミュー=ウェルパ 「アヴェイロさんと…えーっと…通信ではたしかもう一人…いましたもんね」

キョロキョロとあたりを見渡すハミューに声がすっとぼけながら言う。

【え?マグって喋るものですよ?】

迅雷 「あー…そういや、通信回してた声に似てんな?」
シャロン 「アプダクションの起きやすさと関係があるかもしれませんね…え、マグからですか?」
迅雷 「え?」
アネモネ 「遠隔操作かしら…?」
ハミュー=ウェルパ 「マグってしゃべ…あ…」

それぞれが自身のマグを見つめた。

【あれ、喋らないんでしたっけ? もうどっちでもいいですけど】

ハミュー=ウェルパ 「ド、ドウカナー…」
迅雷 「…俺のは違うっぽいな」
アネモネ 「私のマグも言葉は話しませんね」


アヴェイロ 「…ルビィア」

埒が明かないと判断したのだろう。アヴェイロは素っ気なく名前を呼んだ。
その真意を正しく受け取ったルビィアは、アヴェイロがダークファルスと遭遇した理由を話し始めた。

【はいはいもー、分かってますよぉ~ 天才魔法少女☆ルビーちゃんが説明しますってば~………ま、大丈夫でしょう】

アヴェイロ 「…?」
アネモネ (……人の気配?)
シャロン 「お姉さん、どうかしましたか?」
アネモネ 「あ、いえ…」

【えっとですね~】  
アヴェイロ 「…兄上からここの調査を頼まれた。それだけだ」
【ワタシに説明係振っといて自分で言う!?】

どうやらルビィアはアヴェイロの真意を正しく受け取っていなかったようだ。

迅雷 「んあ、アヴの兄…ってと、誰だっけか」
アネモネ 「アヴェイロさんのお兄様は、セトゥーバルさん、でしたっけ?」
迅雷 「あ、それそれ」
アネモネ 「マイブラザーがそう言っていたと覚えています」

【ですです!】
アヴェイロ 「……あんたたちは、いつもこんな敵と戦っているのか? ………レイリアも」
アネモネ 「いつも……とは限りませんね。さっきのはかなりの大物です」
シャロン 「でも少なからず戦ってるのは事実ですね…」
アネモネ 「主だった敵、ではありますよ」
アヴェイロ 「…そうか」

癒された怪我を見つめながら、アヴェイロは掌を動かしてみた。まだ恐怖は遠のいていない。

ハミュー=ウェルパ 「アヴェイロさんも仕事ですか??」
アヴェイロ 「そのようなものだ。 兄の代わりに何件か仕事を貰っている……居候している身だしな」
ハミュー=ウェルパ 「なるほど…」
アネモネ 「相手がDFとわかっていたなら、一人というのは危険すぎると思います」


アネモネが諭した。
今なら無謀であったことを理解出来る。いきなり沸いたのだ。パニックになっていたから「仕方ない」。そうアヴェイロは思った。


「うわーん、まってーおいてかないでよー」 

その時、遠くから声がして足音が近づいてきた。

アネモネ 「あら?」
ハミュー=ウェルパ 「…ん??」
迅雷 「んあ?」
シャロン 「声…?」


現れたのはレドランであった。
こちらを見つけると、ぐるりと旋回して再び戻っていく。すると、茂みから今にも泣き出しそうな子供が飛び出してきた。

迅雷 「お?」
アネモネ 「ハロハロー」
ハル 「よかったー、他の人がいた…」

ほっとしたのか、そのまま座り込んでしまったその子供に皆が駆け寄る。

アネモネ 「子供…の、アークスのようですね」
ハミュー=ウェルパ (男の子…?女の子…?)
迅雷 「んあ、知り合い…じゃないみたいだな」

ハル「あ、あの… おねーちゃんについてきたんだけどはぐれちゃって…」
アネモネ 「まあ、迷子だったのですね」
シャロン 「ええっと…」

シャロンが慌てて端末を操作する。
その様子をぼんやり眺めていたアヴェイロは、「姉」と「はぐれた」という言葉に思うところがあったらしい。


迅雷 「おねーちゃん…アネモネじゃないってーとそういうことになるんかね」
ハミュー=ウェルパ 「シップに送り届けた方がいいかな…?」
アネモネ 「ちょっと不安ですね。お姉様も探しに来るかもしれませんし、しばらくご一緒しましょう」
シャロン 「う~ん…あれ…でてきませんね…?」

アネモネ  (この子は…さっきの視線の主…ではないですね。まだうっすらと感じますし…)

ハル 「ありがとー♪ ボク、ハルって言うの。アトリウスおねーちゃんのお仕事について来たんだけどはぐれちゃって…」
迅雷 「アトリ…んー…あ」
ハミュー=ウェルパ 「ア、アトリさんの…なるほど」
アネモネ 「アトリウス…あら、奇遇ですね。私たちはあなたのお姉様とはお友達なのです」
ハル 「あれ? おねーちゃんやおにーちゃんも「しーたい」ってところの「アークスさん」たちなの?」
ハミュー=ウェルパ 「うん、そうですよー僕はハミューといいます」
シャロン 「シャロンです。よろしくおねがいしますね?」
ハミュー=ウェルパ  (ボクっていってるし…男の子かな…でも服装が女の子だし…うーん…)


安心したのか、ハルは地面に座り込んでしまった。


迅雷 「…ん」
アネモネ 「ジンさん?」
迅雷 「ん、出たな」
シャロン 「いきなりどうかしましたか?って物音?」
迅雷 「さっきから食いもんの臭いがね…」

ヘルメス 「あぷないあぶない…開栓したばかりのお酒がダメになる所だったじゃないか」

シャロン 「あ、あんなところに人が…」
アネモネ 「ああ、さっきからの視線の人…そこにいらっしゃったのですね」
???「ばれているみたいだし、しょうがないか…よっと」

黒ずくめの青年がひらりと着地する。

???「おやおや 君は先日の…んー、ぐっもーにん?」

能天気に挨拶をする青年に、迅雷は心底嫌そうな顔をした。
どうやらふたりは顔見知りらしい。


ヘルメス 「っとと、、自己紹介がまだだったね?僕はヘルメス、見ての通りただの通りすがりだよ?よろしくねー?」


(【…セトゥーバルさん、これまで見越してこの仕事割り振ったんじゃないでしょうね…いや、あの人のことだ、有り得る…】}


C隊のメンバーが保護している迷子の子供。
何かよく分からんが胡散臭い通りすがりのトラブルメーカーらしき男。
ルビィアは元々【双子】が出てきた時点で疑ってはいたのだ。一連の会話をガン無視に体力温存をしているアヴェイロのバイタル値を確認しながら、ひとりごちる。



アネモネ 「アヴェイロさん、C隊の回線をご存知でしたら、連絡をくださればお手伝いしましたのに」
【あ、回線はワタシが勝手にハッキングしました てへ】

迅雷 「マグの方は回線知ってたんだし…て、違うんか。アネモネは回線教えてなかったん?」
ハミュー=ウェルパ 「てっきり知ってると思ってました…」
アネモネ 「おかしいですね。教えたと思ったのですが…」

【知ったとしても、覚えるつもりもなければ使うつもりもない…そんなところですかね】

ハル 「あれ? この子今喋ったの?」
【君がハルくんちゃんですか~可愛いですね~ おとしいくつです?】
ハル 「え? ボク? 14歳だよーえへへ」

【ワ~オ なんとびっくりアヴェイロさんとワタシとタメですよこの子! ついでにレイリアさんも。まぁ、アヴェイロさん書類上は13ですし? この場合、年下になるんでしょうかね~ 】

ハミュー=ウェルパ 「え…(アヴェイロさん年上と思ってた…そっか、レイリアさんの弟だっけ…)」
アネモネ 「ええと、成長にも個人差がありますよね?」
迅雷 (リィナと仲良く出来そうだな…ハル)
ヘルメス (わーお、人の歳ってわからないもんだねぇ)


迅雷 「ん?シャロン何か引っ掛かりあるん?」
シャロン 「ルビーさん…ってああ!なんだか聞き覚えがあると思ったら本名を隠してた…ええっと、ノルティちゃん?のマグさんでしたか!」

【ノルティ…? はて、どこかで聞いたことあるような…】
シャロン 「あ、あれ、シリーズとかあるんですか?てっきり同じものとおもってましたけど」
アヴェイロ「……お前は人の妹にまで迷惑をかけているのか」

【ち、違いますよぉ! まだです!ええ、今の時間軸だと知らないってことですよ!おそらく!ノルティさん今乳幼児でしょ!】

迅雷 「んー、アヴよかこれマグ…ルビィ?に聞いた方が早そうだな…(さらっと言ったが時間軸ってなんだよ… )」
ハル 「ルビーちゃんもよろしくねー」
アネモネ 「ハルちゃんは良い子ですね」

【えーとですね、おそらくこれには深いわけが…あぁ、ハルくんちゃんあんまり触ると仕掛けが発動していまいますかもで…えーと、なんだろう…今のワタシなにも悪いことしてないのに、なんでこんなに責められてるの……】

アヴェイロ 「日頃の行いだろ」
【ひどぅい】

迅雷 「いや、さっき言ってた回線ハックとか普通アウトラインだぞ…マグもクラフトできたんか?」
ハミュー=ウェルパ 「ま、まぁ…緊急事態だったし…?マグの研究とかちょっと興味もっちゃいそうです… 」
迅雷 「そいやハミュの専攻だっけか、機械関係」
アネモネ 「マグって何なのかは詳しく聞かされていませんしね」
シャロン 「マグのクラフト…フォトンブラストを変えるのと同じような感じなのでしょうか…?」

【あ”ーなんでしょう、これは深いわけが…いや別に深くはないんですけど、そういうクラフトもワタシ得意だったりしまして】

ハル 「へー、ルビーちゃん凄いんだねー!」
【ウッ…なんでしょう、このキラキラな瞳に何故か罪悪感が…あ!】

ヘルメス 「ん?」

アヴェイロのマグに触ったヘルメスに高威力の炎弾が10発程飛んだ。
そのうちのひとつがハルの真横を通り抜け、レドランが大きく吠えた。

ヘルメス 「わぁー!?アタタタタタ!?」
アネモネ 「あ、ハルちゃん大丈夫ですか? 流れ弾に当たりませんでした?
アヴェイロ」

【わー!触るなって言ったでしょー! 違うんですレドランさんあの黒ずくめ胡散臭い野郎です!】
ヘルメス 「あちちち…こ、これは強烈だね…触り方が悪かったかなー…?って! ど、どうどう!そこのドラゴン君!どうどう!僕は食べたって美味しくないから落ち着こう!」
ハル 「び、びっくりしたぁ…」
アネモネ 「この子はハルちゃんの保護者ですね…」


その時、アヴェイロの通信機が鳴った。
こんな時に掛けてくるのは一人だけだろう。アヴェイロは眉を潜めて、通信を取る。


『おー、繋がったか。どうだ首尾は?』



ハミュー=ウェルパ 「依頼者…っぽいから…お兄さんからの通信かな??」
アヴェイロ 「……ダークファルスに遭遇しました。撃退しましたが、消耗しています。……C隊に助けられました」
アネモネ 「セトゥーバルお兄様、ですね」
迅雷 「んあ、また違う声…ん、前に聞いたような」


『そうかそうか、もうその任務調査終わったから迷子の保護者から連絡がくるまで休んでろ。じゃーな』


アヴェイロ 「………」
迅雷 「うわ、雑…」

【これ、ダークファルスもハルくんちゃんの迷子も想定内というか寧ろ乱数操ってませんセトゥーバルさん?】

迅雷 「…迷子の事、知ってたみたいだな…何でだ」
アヴェイロ 「……兄上が終わったというのなら、終わったんだろう。」
迅雷 「おいおい…んなでいいんか?」

【おそらくハルくんちゃんの保護者さんとの連絡が取れるまでここにいろってことでしょうね】

迅雷 「んー…保護者、てかアトリになら回線回せば通じると思うんだが…」
ハミュー=ウェルパ 「んー…アトリさん回線きってるのかなぁ…」
迅雷 「…一応かけてみるか?」

アトリウスに通信を試みるが、どうやら回線を切っているらしい。

迅雷 「んじゃ、せめて通知だけでも残しとくか…「保護してる子はこっちにいるから安心しい」…っと」

【アヴェイロさん、体も疲れているようですし、ついでに心も疲れてそうですし、少しお休みになっては?】
アヴェイロ 「………」
アネモネ 「アヴェイロさん、今はゆっくりお休みください」
ハル 「疲れてる時は無理しちゃダメだよー?」
ハミュー=ウェルパ 「うんうん」





【……まぁ、さっきのやり取りからして、セトゥーバルさんはいろいろ人外的何かを持ってる特殊な人でして。アヴェイロさんはそんなお兄様とどう折り合いをつけたらいいか分からないんですよ】

ハミュー=ウェルパ 「家族なんだからそんなの気にしなくてもいいと思いますけどね~」
アネモネ 「兄弟ですし、難しく考えるのは諦めてしまうのが早いと思います」
ヘルメス 「なるほど、でも人間関係っていうのは何時だって強敵だからねぇ…」

【ワタシも兄のようなモノがいますけど、久々に会っても口を開けば罵倒オンパレードですからねぇ】

アネモネ 「アヴェイロさんは性格的に生真面目で、考えすぎてしまうのでしょうね」
ハミュー=ウェルパ 「なるほど…」



アヴェイロが眠ったことを確認したルビィアは、はっちゃけトーンで話し始めた。

【ところで皆さん。皆さんは個性についてどう思います?】

ヘルメス 「個性?」
ハミュー=ウェルパ 「具体的に言うと…?」
迅雷 「んあ、んだよ急に?」

【その人を、その人たるものにする。決定的なもの、とそこらへんの解釈で大丈夫です】


ハル 「その人をその人たる…?」
ヘルメス 「うーん、そうだねぇ…?」
迅雷 「…」

【口癖や、ふとした仕草…着る服の傾向や考え方…ポジティヴやネガティヴなど、とかでしょうか】

アネモネ 「んー、顔を合わせて、話して、慣れていくもの、かしら」
ハミュー=ウェルパ 「自分が自分であるため…だと思うので他人がどうこういうものでもないかな…?」
迅雷 「俺ん場合は…意思、かねぇ…」
アネモネ 「私は、個性は、交流あってのものだと思いますね」
ヘルメス 「生きてきた瞬間に出来て時の積み重ねで整形されるんじゃないかな?」

【皆さんの持論、確かに聞きましたよ~なるほどなるほど】

迅雷 「こういう固い問題てのは苦手だけんど、大体1個に絞れないもんだよな…全部合ってる気ぃするし」

【自己を規定するのは、他人の認識でしかない。ワタシはそう考えます。いえ、そう考えるようになりました】
アネモネ 「自分のことを伝えて、それを受け取ってくれる相手がいて、その全部が自分、ということですね」

【はい、素晴らしいまとめです。……これはアヴェイロさんの従者から聞いたんですけどね…屋敷に引き取られてきたアヴェイロさんは、長らくその存在を忘れかけられたりしていたそうです】

ヘルメス 「忘れかけられた?」
迅雷 「…ん?引き取られて?…ああ、そうだったな」
ハミュー=ウェルパ 「…?」

【アヴェイロさん、無感情の無個性だったんですよ。だから個性で人を認識する人間に存在を認識されない。軽く言えば「そう言えばそんなやついたな」っていうアレです】

ハミュー=ウェルパ 「それ…個性の問題なのかな…」
迅雷 「血縁的には確か違うんだっけか、レイリアとかと…だよな?うろ覚えだけんど」
ヘルメス 「なるほどね…人間らしさ…というか影が薄い、という事かな?」

【人は個性で他人を認識する。それがないと忘れられてしまう……まぁ、妾の子であった彼にはそれでも良かったんでしょう】

アネモネ 「周りはアヴェイロさんではなく、お坊ちゃんとしてしか見ていなかったのですね」

【レイリアさんが人格を分けて自らを護ると同じように、アヴェイロさんは「自分は悪くない」と自身を擁護し否定することで、自身を守ってきていたんです。でも】

迅雷 「でも?」

【レイリアさんに会ってしまって、彼女からの認識を受け取ってしまった。レイリアさん、背中に酷い火傷の痕があるのはご存知です?】

迅雷 「え?…知ってたか?」
ハミュー=ウェルパ 「初めて聞きましたね…」
ヘルメス 「酷い火傷の痕…ね」
アネモネ 「見たことありますが…レディの肌の傷など、口にするものではありませんよ?」

【ウフフ優雅に怒られましたね~ まぁ見逃してくださいな。あれはレイリアさんにお母さんによるアヴェイロさんへの虐待に巻き込まれた結果の代物です。熱湯をぶちまかれたんですよ。まぁ、アヴェイロさんがですけど。それを身を挺して庇ったそうです。】

アネモネ 「ドロドロしてますね…」
【ですよね~】
ヘルメス 「…」
ハミュー=ウェルパ 「ひどい、ですね…」

【そりゃあ、最愛の人が自分と同じタイミングで平民と子作りしてあまつさえ同じ日に生まれたんですからそりゃ激おこですよ】
ヘルメス 「…それで子供にあたるとはね」
迅雷 「…そいや、レイリアが言ってたな、「母は自己中で他者を平気で蹴落とす様な奴」…だっけか」

【その日から、無感情だった少年は成長を遂げました。…え、レイリアさんそんなこと言ってたんですか…そんなこと言う人でしたっけ…まぁ、それまで色々ヒレのついた噂がうようよしてましたからねぇ…相手はもう死んでいる。当たれるのはアヴェイロさんだけ。分からんでもないですが、まぁその一連の事件でアヴェイロさんは歪ながらも個性を手に入れた。でも、その個性が今揺らいでいる。それにアヴェイロさんが無意識に気が付いている】


迅雷 「…今回応援寄越さんかったのも、必要とされてないと思ってたからか?」

【うーん、それは彼自身の生まれ持った頑固さですかね。信頼はしてますが信用は出来ていないというところでしょうか】
迅雷 「んあ、そか…信用されてないんか、まだ」

【レイリアさんに何か変化があったんですよね? えーとぶっちゃけてこっちの…あ、こちらの映像は流れないんでした…こゆびをーたててますよー!自分で言うのって、虚しいですね…】

アネモネ 「ツンツンしている赤目のレイリアさんのことですか?」
【ツンツン…? ええと、人間関係ですよ 好きな人でも出来ました?】

ハミュー=ウェルパ 「んー…」
迅雷 「俺には情報はさっぱ入ってないな」
【むむむー絶対そうだと思ったのにー】
ハミュー=ウェルパ 「友達は地球では増えてると思いますよー」
アネモネ 「そういえば、地球でもいろいろあったみたいですね」
ハミュー=ウェルパ 「 特に仲のよさそうな人もいらっしゃいます」

【ほほう…男ですか女ですか】
ハミュー=ウェルパ 「…?男性ですよ?」
【それかー! やっぱそれかー!】

ハル 「好きな人出来ると、変わるのー?」
【そりゃ変わりますよ~視界がバラ色です】

ハミュー=ウェルパ 「その人にレイリアさん地球にまた連れて行くって約束してるんですよ…」
ヘルメス 「ハル君、帰ったら辞書で「恋は盲目」って言葉を知らべるといいよ~」

【アヴェイロさんにそういう感情はないんですけども、ただレイリアさんにとって必要とされるのがその方に代わってしまった。それは、彼が盲信する個性に影響が出てもおかしくはありませんそれがどうして不安なのか、それが分からなくて、分かりたくもなくて、「自分は悪くない」から焦って生き急いでる】

アネモネ 「つまりアヴェイロさんは、大好きなお姉様が変わってきて、置いて行かれてしまう不安があるのですね」
【うわーその完璧なまとめを聞いてますと、このシスコン野郎きめぇってなりますね】

迅雷 「そこまでざっくり言うとただの思春期人生相談だな…」
ハミュー=ウェルパ 「んー…アヴェイロさんが誰のために、何のためにがんばってるのか、ちょっと見えなくなってきました」


アヴェイロ 「………誰がシスコン野郎だ」

迅雷 「あ、起きた」
【うわあ、起きてやがりましたか】
ハミュー=ウェルパ 「おはようございます」
アネモネ 「おはようございます」
ハル 「おはよー」
ヘルメス 「さて、コーヒーでも如何かな?」
アヴェイロ 「……俺は紅茶派だ」
ヘルメス 「そりゃ残念」



アヴェイロ 「…俺は生き急いでいるのか」
【そうですね。手遅れなくらい】

アネモネ 「思春期の男の子ならそんなものじゃないかしら」
アヴェイロ 「……」
ハミュー=ウェルパ 「何にがんばっていいかわからなくなったりするとそんな感じになっちゃうかもしれませんね」
迅雷 「まあなんだ、とりあえず始めとしてここの連中と話してみりゃいんでないかね?」


【だからアヴェイロさん。個性を探しましょう? ここには胡散臭いやつも含め、あなたをそれぞれに認識している人たちがいる。今だって、学院の皆やお家の人も。貴方を心配している人は貴方が思っているよりも多いんです。】

ヘルメス 「胡散臭いとは失礼だねー、でもこの世界は君が思っているよりは広いんだ…もっと色んなものを見てからでも遅くはないと僕は思うよ?」


【まぁつまり、捻くれてる暇があったらちょっとは周り見ろよこのシスコン野郎ってところです。ここテストに出ますよ】


アネモネ 「実は私も紅茶党なのです。お茶会への招待をしたら受け取ってくれると嬉しいですね」
アヴェイロ 「………」


アヴェイロが少し怯えた目で、アネモネを見上げる。
優しく微笑む彼女を見て、それからゆっくりと視界を動かす。
少しだけ、世界が変わったような気がした。


アヴェイロ 「話せば、個性は見つかるのか?」
【えぇ、もちろん。アヴェイロさんの名に掛けて】
アヴェイロ 「……そうか」

アネモネ 「ハミュさんとはお年も近いのですし、一緒に遊びに行くのも良いですね」
アヴェイロ 「…遊びに?」
ヘルメス 「ならショッピングでもいいしアークスシップのカジノなんかも良いだろうね」
迅雷 「あー…うん、外が嫌ならシップ内でもいいだろうな、カフェとかもあるし」
ハミュー=ウェルパ 「一度ゆっくり、お話でもしてみたいですね?」

アヴェイロは少し躊躇ってから、コクリと頷いた。
その時、ハルの通信機から連絡が入る。

『ごめーん、通信切ってた。ハル君が一緒なんだって?』

アネモネ 「アトリさん、ハルちゃんは元気ですよ」
迅雷 「んあ、アトリか…ああ、竜連れた子だろ、落丁本がたぶらかしかけてるから急いだ方がいいぞ」
アトリウス『ジンさん、なんか聞きたくない声がした気がするんだけど…大丈夫なのよね? って大丈夫じゃないじゃないそれ!』

アトリウス『とりあえず迎えのシップ手配するから、ジンさんはちゃんとハル君連れてきてね!?』
迅雷 「うわ、俺か…まあ、そうなるわな」

【えっと、アトリさん? この連絡って誰から言われたとか、あります…?】

アトリウス 『え? レイリアさんのお兄さんから「迷子の子はC隊の連中が保護してるから連絡してみろ」って…』
【あ”ーやっぱり! あの人エスパーか何かなんですかね!? 怖い!】
アネモネ 「ぜんぶお兄様の言う通り、ですか…」
ヘルメス 「予測済み、みたいだね わー、こういう人は敵に回したくないなぁ」

アヴェイロ 「……帰るぞ」
ハミュー=ウェルパ 「大丈夫ですか?」

まだふらついているアヴェイロにハミューが肩を貸そうとする。
【はい! アヴェイロさん記念すべき友情の始まりですよ! 主にハミューさんとの!】

ハミュー=ウェルパ 「困ってる時はおたがい様ですよ?」

そう言われて微笑まれたら、強がる意味はない。
アヴェイロはありがたくハミューの肩に捕まった。実際、体力の消耗で歩くこともままならなかったのだ。

迅雷 「…まあなんだ友情、おめでとうな」
アヴェイロ 「……友情とはこうも強制的に始まるものなのか…?」




【こうしてアヴェイロ少年は成長したのであった――――! つづく!!】

  • 最終更新:2017-07-16 22:06:20

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